波風を立てたくない気持ちが関係にもたらすもの 自己対話で探る本音の伝え方
パートナーシップにおいて、「波風を立てたくない」という気持ちを持つ方は少なくありません。穏やかな関係を保ちたい、相手を傷つけたくない、衝突を避けたい、といった思いから、自分の本音や要望を抑え込んでしまうことがあります。しかし、この「波風を立てたくない」という気持ちが、知らず知らずのうちに関係性に影響を与えていることがあります。
「波風を立てたくない」気持ちが関係性にもたらす影響
一見すると、波風を立てないことは平和な関係を保つための賢明な方法のように思えます。しかし、長期的に見ると、以下のような影響が生じる可能性があります。
- 不満の蓄積: 言いたいこと、伝えたいことを我慢し続けると、心の中に不満が 쌓(つ)もり続けます。小さな不満でも、積み重なると大きなわだかまりとなり、関係性を内側から蝕むことがあります。
- 表面的な安定と内面の乖離: 関係は表面上穏やかでも、心の中では相手への不満や諦め、孤独感が募っているという状況が生まれます。これは、見せかけの安定であり、真の意味で繋がっている状態とは言えません。
- すれ違いの固定化: 本音を伝えないことで、相手はあなたの本当の気持ちやニーズを理解する機会を得られません。「言わなくても分かってほしい」という期待は、相手にとっては推測するしかなく、すれ違いが固定化されていく可能性があります。
- 突発的な感情の爆発: 抑え込んだ感情は消えてなくなるわけではありません。限界に達した時に、それまで我慢していたものが一気に溢れ出し、予期せぬ形で感情が爆発してしまうことがあります。これは、波風を立てないようにしていたはずが、かえって大きな波を生み出すことにつながります。
なぜ「波風を立てたくない」と感じるのか?自己対話での原因探し
波風を立てたくないと感じる背景には、様々な心理的な要因が考えられます。自己対話を通じて、その原因を探ってみましょう。
自己対話の問いかけ例:
- 「私は、波風を立てることの何を恐れているのだろうか?」
- 「波風を立てると、自分にとって、あるいは相手にとって、どんな嫌なことが起こると思っているのだろうか?」
- 「過去に、自分の意見を言ったり、不満を伝えたりしたことで、傷ついた経験があるだろうか?それはどんな経験だったか?」
- 「相手が怒ったり、嫌な顔をしたりするのが怖いのだろうか?」
- 「自分が本音を言うことで、相手を傷つけてしまうのではないかと心配しているだろうか?」
- 「自分の気持ちは取るに足らないものだと思っていないだろうか?」
これらの問いかけを通じて、自分の心の中にある恐れや信念、過去の経験などが、「波風を立てたくない」という行動につながっていることに気づくかもしれません。例えば、「本音を言うと見捨てられるかもしれない」という恐れや、「感情的になるのは悪いことだ」という信念などが隠れていることがあります。
自己対話で本音に気づくプロセス
自分の心の中にある「波風を立てたくない」というフィルターを通してではなく、率直に自分の内面と向き合い、本音に気づくことが重要です。
- 感情に気づく: まず、自分が今、どんな感情を抱いているのかに意識を向けます。パートナーの特定の言動に対して、モヤモヤする、イライラする、悲しい、寂しい、といった感情を素直に受け止めます。これらの感情は、あなたの心からのサインです。
- 感情の背景にある考えやニーズを探る: なぜ、そのような感情が生まれたのか、その背景にある自分の考えや満たされていないニーズは何かに焦点を当てます。「パートナーが〇〇と言った時、私は△△と感じた。それは、きっと□□と私は考えているからかもしれない。本当は、☆☆のように思われたい(あるいは、してもらいたい)のかもしれない。」のように、感情と思考、ニーズを繋げて考えてみます。
- 体感覚に耳を傾ける: 感情は体にも表れます。胸がザワザワする、お腹が痛い、肩が凝るなど、自分の体感覚に意識を向け、「この感覚は何を伝えようとしているのだろう?」と問いかけてみることも、本音に気づくヒントになります。
このプロセスを通じて、「波風を立てたくない」という思いの下に隠されていた、本当の自分の気持ちや願望、満たされていないニーズを明確にしていきます。
本音を穏やかに伝えるためのステップ
自己対話で本音に気づいたとしても、それをそのまま相手にぶつけることは、文字通り「波風」を立ててしまうことになりかねません。ここでは、本音を穏やかに、かつ建設的に伝えるためのステップをいくつかご紹介します。これは、アサーティブネス(自分も相手も大切にする自己表現)の考え方に基づいています。
- 伝える目的を明確にする: 何のために本音を伝えたいのか、その目的を明確にします。相手を非難するためではなく、関係性をより良くするため、自分のニーズを理解してもらうため、問題解決のため、といった前向きな目的を持つことが大切です。
- 伝える準備をする: 感情的になっている時は、一旦落ち着く時間を取りましょう。自己対話で感情を整理し、伝えたいことを言葉にする練習をしてみるのも良い方法です。
- 「Iメッセージ」で伝える: 相手を主語にする「あなたは〜」という言い方は、非難と受け取られやすくなります。「私は〜」を主語にした「Iメッセージ」で、自分の感情や考え、ニーズを伝えます。「あなたが〇〇した時、私は△△と感じました。なぜなら□□だからです。」のように伝えると、相手も攻撃されていると感じにくくなります。
- 具体的な事実に基づいて話す: 漠然とした不満ではなく、具体的な事実(いつ、どこで、何があったか)に基づいて伝えます。「いつもそう」「あなたは全然〜してくれない」といった一般化や誇張は避け、今回の特定の出来事について話すようにします。
- 相手の反応を予測しすぎない: 相手がどう反応するかを過剰に予測し、不安になる必要はありません。あなたが本音を穏やかに伝えたなら、相手にはそれを受け止める責任があります。もちろん、相手にも相手の感情や事情があることを理解しようとする姿勢も大切です。
- 解決策を一緒に探る姿勢: 問題を提起するだけでなく、「私はこうなると嬉しい」「一緒に何か良い方法はないか考えたい」といった、未来志向で解決策を共に探る姿勢を示すことで、話し合いはより建設的になります。
本音を伝えることは、波風を立てることではなく、健全な関係性を築くために必要なコミュニケーションのプロセスです。恐れず、しかし丁寧に、あなたの内側にある大切な思いを表現することを試みてください。
自己対話と実践による関係性の変化
波風を立てないようにすることから、穏やかに本音を伝えることへのシフトは、一朝一夕にはできないかもしれません。しかし、自己対話を継続し、小さなことからでも本音を伝える実践を積み重ねることで、関係性は少しずつ変化していきます。
- あなたは自分の感情やニーズを尊重できるようになり、自己肯定感が高まります。
- 相手はあなたの内面をより深く理解し、関係性に安心感が生まれます。
- お互いの本音を伝え合えることで、表面的な付き合いではなく、より深い信頼関係が築かれていきます。
- 問題が生じた際にも、感情を抑え込むのではなく、建設的な対話を通じて解決へと向かう力が育まれます。
波風を「避ける」のではなく、自己対話を通じて自分の内側にある本音に気づき、それを関係性をより良くするための「穏やかな波」として相手に伝えること。このプロセスが、あなたのパートナーシップをより豊かで、真に安定した場所へと導いてくれることでしょう。