『こうしてほしい』を穏やかに伝える 自己対話で練る建設的なフィードバック
人間関係、特にパートナーシップにおいて、「相手にこうしてほしい」という期待や要望を伝えることは避けられない場合があります。しかし、伝え方を間違えると、相手を傷つけたり、関係が悪化したりするのではないかと懸念し、結局何も言えずに不満を溜め込んでしまう方もいらっしゃるかもしれません。あるいは、感情的に伝えてしまい、後で後悔することもあるかもしれません。
ここで重要となるのが、相手へのフィードバックを「建設的に」行うことです。そして、建設的なフィードバックを可能にする鍵の一つに、「自己対話」があります。この記事では、自己対話を通じて、あなたの「こうしてほしい」という気持ちや要望を整理し、パートナーへ穏やかに伝えるためのステップをご紹介します。
なぜ建設的なフィードバックは難しいのか?
パートナーへ「こうしてほしい」と伝えることが難しく感じられるのには、いくつかの理由があります。
- 相手の反応への恐れ: 相手が怒るのではないか、傷つくのではないか、関係が険悪になるのではないかという不安。
- 自分の感情の混乱: 何に対して不満を感じているのか、本当に伝えたいことは何なのかが自分でもはっきりしない。
- 伝え方が分からない: 具体的にどのような言葉で、どのようなトーンで伝えれば良いのかが分からない。
- 過去の経験: 以前伝えた時にうまくいかなかった、かえって悪化したという経験がある。
これらの要因が絡み合い、フィードバックの必要性を感じていても、行動に移せなかったり、感情的な伝え方になってしまったりします。
建設的なフィードバックとは?
建設的なフィードバックとは、相手の行動や状況に対して、改善や成長を促すことを目的とした伝え方です。非難や否定ではなく、特定の行動に焦点を当て、それが自分や関係性にどのような影響を与えているかを伝え、改善に向けた具体的な提案や要望をします。
- 非建設的な例: 「あなたはいつも〇〇しないよね。本当にだらしない。」(人格攻撃、抽象的)
- 建設的な例: 「この前の〇〇の件で、あなたが約束の時間に間に合わなかった時、私は少し不安になりました。次からは、事前に連絡をもらえると安心できます。」(特定の行動、感情、影響、具体的な要望)
重要なのは、「相手の人格や存在そのものを否定するのではなく、特定の行動や状況について話す」という点です。
伝える前に自己対話で準備するステップ
建設的なフィードバックを行うためには、感情的になるのではなく、冷静に、そして具体的に伝える必要があります。そのためには、伝える前に自己対話で自分の内面を深く整理することが非常に有効です。
ステップ1:なぜ伝えたいのか、目的を明確にする
まずは自分自身に問いかけてみましょう。「なぜ私はパートナーにこのことを伝えたいのだろうか?」。単なる不満の表明でしょうか?それとも、関係性をより良くしたい、共通の目標に向かいたい、お互いが気持ちよく過ごしたい、といった目的があるでしょうか?
自己対話を通じて、フィードバックの真の目的を明確にすることで、単なる批判ではなく、前向きな意図を持った伝え方ができるようになります。
ステップ2:自分の感情と向き合う
その「こうしてほしい」の裏には、どのような感情があるでしょうか? 期待外れ、寂しさ、不安、怒り、悲しみ、あるいは単なる改善への希望でしょうか? 感情そのものに善悪はありませんが、感情に「乗せて」伝えてしまうと、相手はメッセージそのものよりもあなたの感情的なトーンに反応しやすくなります。
自己対話で自分の感情を一つずつ丁寧に認め、「自分は今、〇〇と感じているのだな」と客観的に捉えることで、感情に流されずに話す準備ができます。
ステップ3:特定の行動と、それが自分に与えた影響を整理する
抽象的な不満(例:「あなたは協力的じゃない」)ではなく、どのような「特定の行動」に対して伝えたいのかを明確にします。「〇〇の時、あなたが××という行動をとったこと」のように、具体的な出来事を特定しましょう。
次に、その行動があなた自身にどのような影響を与えたのかを整理します。「その時、私は△△という気持ちになった」「その結果、困ったことが起きた」など、あなたの視点から事実と感情、そしてその影響を整理します。これは、I(アイ)メッセージで伝えるための準備にもなります。
ステップ4:自分のニーズ(本当に求めていること)を理解する
あなたが「こうしてほしい」と願うのは、その裏に満たされていない「ニーズ」があるからです。例えば、「もっと話を聞いてほしい」という要望の裏には、「理解されたい」「安心したい」といったニーズがあるかもしれません。「家事を手伝ってほしい」の裏には、「協力して快適な生活を送りたい」「負担を分かち合いたい」といったニーズがあるかもしれません。
自己対話を通じて、自分の根源的なニーズを理解することで、要望を伝える際に単なる要求ではなく、より建設的で関係性を尊重した伝え方が可能になります。
ステップ5:最も伝えたい核となるメッセージを研ぎ澄ます
ステップ1〜4で整理したことを踏まえ、パートナーに最も伝えたいことは何でしょうか? 情報を詰め込みすぎず、シンプルで分かりやすいメッセージに絞り込みましょう。
ステップ6:相手への配慮を検討する
伝える内容が整理できたら、次に「どのように」「いつ」「どこで」伝えるかを自己対話で検討します。相手の状況はどうか? 疲れている時ではないか? 他の人がいない場所か? 穏やかな雰囲気か? 相手が受け入れやすい状況を考えることも、建設的なフィードバックの重要な要素です。
自己対話を踏まえた伝え方
自己対話で十分に準備ができたら、いよいよパートナーに伝えます。その際には、いくつかのコミュニケーションスキルを活用しましょう。
- I(アイ)メッセージを使う: 「あなたは〜」と相手を主語にするのではなく、「私は〜と感じた」「私は〜と思った」と自分を主語にして話します。これにより、非難ではなく、自分の内面を共有する形になります。
- 事実に基づいて具体的に話す: 憶測や評価ではなく、実際に起こった特定の行動について話します。「いつも」や「決して」といった極端な言葉は避けます。
- 感情や影響を正直に伝える: 特定の行動によってあなたがどう感じたか、どのような影響があったかを伝えます。感情的な表現は避けつつも、自分の内面を伝えることは共感を呼びやすくなります。
- 要望や提案を具体的に伝える: 相手にどうしてほしいのか、具体的な行動として伝えます。命令形ではなく、「〜してもらえると嬉しいな」「〜するのはどうかな?」といった協力や相談の姿勢で伝えます。
- 相手の話を聴く姿勢を持つ: あなたが伝えた後、パートナーがどのように感じたか、どう考えているかを丁寧に聴きましょう。フィードバックは一方通行ではなく、対話の始まりです。
伝えた後の自己対話
フィードバックを伝えた後も、自己対話は続きます。相手の反応が予想と違った場合、どのように感じているか? うまく伝えられた点、改善したい点はあるか? 伝えたことで心がどう変化したか?
自己対話を通じて、フィードバックの経験全体を振り返り、次回のコミュニケーションに活かすことができます。
まとめ
パートナーシップにおける「こうしてほしい」という要望は、関係性をより良くするための願いであることが多いです。しかし、その伝え方一つで、関係は大きく変わります。
建設的なフィードバックを行うために、伝える前の自己対話は非常にパワフルなツールです。自分の目的、感情、ニーズを深く理解し、伝えたいことを整理することで、相手への配慮を忘れずに、穏やかで具体的なメッセージを伝える準備ができます。
自己対話を通じて、あなたの内面と向き合い、伝えるスキルを磨くことは、パートナーシップだけでなく、あらゆる人間関係の改善に繋がるでしょう。完璧を目指すのではなく、まずは一歩、自己対話から始めてみてはいかがでしょうか。