伝わる会話のために 自己対話で整理するコミュニケーションの目的
話し合いの中で、「言いたいことがうまく伝わらない」「相手の反応が予想と違う」「結局、何を話したかったのか分からなくなった」と感じた経験はありませんでしょうか。特にパートナーシップにおいては、日常的な小さな会話から重要な話し合いまで、コミュニケーションの質が関係性に深く影響します。
言葉を選ぶスキルや、相手の話を丁寧に聞く姿勢はもちろん大切です。しかし、それ以前に、私たちが「なぜ、この会話をしたいのか」「この会話を通じて、どういう状態になりたいのか」という、コミュニケーションの「目的」を明確にしているかどうかは、会話の伝わりやすさや成果に大きく関わってきます。
目的が曖昧なまま会話を始めると、感情に流されたり、論点がずれたりしやすくなります。結果として、お互いに疲弊し、関係性に溝が生まれてしまうことも少なくありません。
この記事では、自己対話を通じてコミュニケーションの目的を整理することの重要性と、その具体的なステップをご紹介します。自分自身の内面と向き合うことで、より意図が伝わり、建設的な話し合いができるようになるヒントを見つけていきましょう。
なぜコミュニケーションの目的を明確にすることが重要なのでしょうか
私たちが誰かとコミュニケーションを取る時、そこには必ず何らかの理由や意図があります。例えば、
- 相手に何かをお願いしたい
- 自分の気持ちを理解してほしい
- 問題を一緒に解決したい
- 情報を共有したい
- 相手を励ましたい、感謝を伝えたい
などです。これらの意図が明確であればあるほど、私たちはそれに沿った言葉を選び、話し方やタイミングを調整することができます。
一方で、目的が曖昧な場合、「なんとなく不満を伝えたい」「とにかく今の状況を変えたいけれど、どうしたら良いか分からない」といった状態になりがちです。このような場合、感情的な言葉が増えたり、具体的な要望ではなく非難になってしまったりすることがあります。相手は「何を求めているのだろう?」と混乱し、建設的な話し合いが進みにくくなります。
コミュニケーションの目的を明確にすることは、単に自分の言いたいことを正確に伝えるためだけではありません。相手にこちらの意図を理解してもらいやすくなり、より建設的な反応を引き出しやすくなります。また、自分自身も会話のゴールを見失わずに、冷静に話を進めることができるようになります。これは、心理学でいうところの「目標志向的なコミュニケーション」にも通じる考え方です。
自己対話でコミュニケーションの目的を整理するステップ
では、どのようにしてコミュニケーションの目的を明確にすれば良いのでしょうか。ここで自己対話が力を発揮します。相手と話す前に、あるいは話し合いがうまくいかなかった後に、自分自身の内面に問いかける時間を持ちましょう。
ステップ1:会話の状況と自分の感情を振り返る
まず、問題となっている会話や、これから行いたい会話について具体的に思い返してみましょう。
- どんな状況で、誰と、何について話したい(または話した)のでしょうか?
- その状況や相手の言動に対して、自分はどのように感じているのでしょうか?(例:不満、不安、悲しみ、怒り、期待、寂しさなど)
- なぜ、そのように感じるのでしょうか? その感情の背景にある自分の価値観や経験は何でしょうか?
感情は、私たちが何を大切にしているか、何に傷ついているかを示す重要なサインです。しかし、感情に支配されたまま会話を始めると、本来の目的を見失うことがあります。まずは感情を感情として認めつつ、その感情がどこから来ているのかを探ります。
ステップ2:「なぜ、この会話をしたいのだろう?」本音を探る
自分の感情や状況を整理したら、さらに深く問いかけます。
- 「私は、この会話を通じて、本当は何を求めているのだろう?」
- 単に相手を非難したいだけですか? それとも、非難の裏には「理解してほしい」「変わってほしい」という願いがありますか?
- 自分の正しさを証明したいだけですか? それとも、その状況を改善したいという意図がありますか?
- 相手に何か行動してほしいですか? それとも、自分の気持ちを聞いてほしいだけですか?
この問いかけは、自分の内面に隠された「本当のニーズ」に気づくためのものです。例えば、パートナーに「どうしていつも部屋を片付けないの!」と怒りを感じている場合、表層的な感情は怒りや不満ですが、その根源にあるニーズは「心地よい空間で過ごしたい」「協力し合いたい」「尊重されたい」といったものであるかもしれません。自己対話によってこのニーズを特定することが、目的を明確にする上で非常に重要です。
ステップ3:「この会話を通じて、最終的にどういう状態になりたいのだろう?」ゴールを設定する
本音のニーズが見えてきたら、次は具体的な「ゴール」を設定します。
- 「この会話が終わった時、お互いに、あるいは関係性は、どのような状態になっているのが理想だろう?」
- 問題が完全に解決していることでしょうか?
- お互いの気持ちや立場を理解し合えていることでしょうか?
- 今後のことについて、何らかの合意や方向性が見つかっていることでしょうか?
- 単に自分の正直な気持ちを伝えることでしょうか?
- 関係性が少しでも前向きな方向に向かっていることでしょうか?
ここで設定するゴールは、必ずしも相手を完全に変えることや、自分の要求を100%通すことである必要はありません。現実的で、自分と相手の双方にとって、少しでも良い方向に向かうようなゴールを設定することが大切です。このゴール設定があるかないかで、会話の着地点が大きく変わります。
ステップ4:目的達成のために、どんな伝え方が最適か考える
目的とゴールが明確になったら、それを踏まえて「どのように伝えるか」を考えます。
- 目的(自分のニーズ、ゴール)を達成するためには、どのような言葉を選べば良いでしょうか?
- どのようなトーンで話せば、相手に意図が伝わりやすいでしょうか?
- 話すタイミングや場所は適切でしょうか?
- 相手に誤解されやすい点はありませんか?
- 自分の感情を伝える必要がある場合、感情に任せるのではなく、「私は〜と感じています」というように、「Iメッセージ」で伝えることができますか?
アサーティブネスの視点を取り入れるなら、「相手の権利を侵害せず、自分の権利も守りながら、率直に誠実に伝える」という点を意識してみるのも良いでしょう。自己対話で目的を整理した後であれば、衝動的な伝え方ではなく、より戦略的で建設的な伝え方を考えやすくなります。
自己対話によるコミュニケーション目的整理の効果
コミュニケーションの前に自己対話で目的を整理する習慣を持つことで、以下のような効果が期待できます。
- 自分の感情やニーズを冷静に把握できる
- 会話の着地点を見失わない
- 衝動的な、後悔するような言動を減らせる
- 相手に意図が正確に伝わりやすくなる
- 建設的な話し合いにつながりやすくなる
- 関係性の不要なこじれを防げる
これは、一朝一夕に身につくスキルではないかもしれません。特に感情的になっている時は、冷静に自己対話を行うのが難しい場合もあります。しかし、少しずつでも意識して取り組むことで、会話の質は確実に変わってきます。
まとめ
パートナーシップを含むあらゆる人間関係において、コミュニケーションは不可欠な要素です。そして、そのコミュニケーションをより良いものにするためには、「何を話すか」だけでなく、「なぜ話すのか」「どうなりたいのか」という目的意識を持つことが非常に重要です。
自己対話は、このコミュニケーションの目的を明確にするための強力なツールです。自分の感情や本当のニーズを探り、会話のゴールを設定することで、より意図が伝わりやすく、建設的な話し合いを目指すことができます。
もし、これまでの会話で「どうもうまくいかないな」と感じているのであれば、次にパートナーと話す前に、少し時間を取って自分自身に問いかけてみてください。「なぜ、私はこの話をしたいのだろう?」「最終的に、どうなりたいのだろう?」と。この小さな一歩が、伝わる会話への、そしてより良い関係性への大きな変化をもたらすかもしれません。